農業分野における知的財産権の活用 その①(育成者権編)

 今回は、農業分野における知的財産権(育成者権)の概要と注意点、さらに知的財産権を活用した経営事例についてご紹介します。

 今後、これまで以上に、農業分野における知的財産権の重要性は増してくると考えられます。

 知的財産というと、皆さん自身が品種登録等の知的財産権を取得し、権利を守ることで経営向上を図るということが、まず思い浮かびがちですが、それだけではなく、知的財産権は全て法律で保護されているものなので、プロの農業経営者としては、他者の知的財産権を侵害しないようにしなければなりません

 知識のないまま、いつの間にか他者の権利を侵害してしまい、思わぬ損害を相手に与え、場合によっては刑事罰が科されることもあります。

 プロの農業者としては、知的財産権について充分な知識を持っていることが必要不可欠です。

 これから知的財産権(育成者権)について順を追って説明していきます。皆さんの農業経営・生産にお役立てください。 

知的財産の定義と種類

 知的財産とは、一般的に人間の知的、創造的な活動によって生み出された経済的に価値のある物やアイディアを指します。

 知的財産のうち、特許庁や農林水産省に登録を行うことによって、開発者の独占的な権利が認められるものは7つあります(図1)。

 この中で、農業分野に最も関係の深いものは「種苗法」により新品種の育成者に与えられる「育成者権」です。

図1

 

種苗法と品種登録について

 安定した農業生産を行い、均質な生産物を収穫して販売するためにも、優れた特性を持つ「品種」を選定し、信頼性の高い業者等から優良な種苗を手に入れることは極めて重要です。

 このため、「種苗法」という法律が、新品種の登録や種苗の流通を適正に管理するために存在します(引用資料①)。

 既存の品種よりも更に優れた特性を持つ品種を作り出すことは、農業を活性化することにつながるため、国では、品種育成者に「育成者権」という権利を与えています。

 これにより、我が国では昭和53年に品種登録制度が整備されて以来、2万を超える品種が登録されており、現在でも年間1000を超える品種登録出願が行われています(図2)。

 図2

 

 新品種として登録するためには、農林水産省所定の審査を受ける必要があります(引用資料②および③、表1)。

表1

 

 無事に審査が済めば、登録料を支払うことで植物なら25年間、樹木類なら30年間の間、育成者権が認められます(表2、図3)。

表2

図3

 

 「育成者権」を持つことで認められる行為も、種苗の生産、譲渡(販売)等と多岐にわたっており、優れた品種を開発すれば生産販売で儲かるだけでなく、ロイヤリティ(許諾料、利用料などのこと)を徴収することで、更に莫大な収益が見込めるわけです(表3)。

表3

 

種苗法の落とし穴

 しかし、種苗法という法律をよく知らないために起こる困った事案があります。

 皆さんが生産している種苗は、品種登録されたものでしょうか?

 そして、それは育成者権が有効な期間中のものでしょうか?

 もし該当する品種であれば、種苗から生産して生産物を販売する行為は認められていますが、許諾された内容によっては、余った苗や、生産終了後の株を勝手に他人に販売する行為は法律違反です。

 もちろん、種子についても同じです。

 実際に、インターネットを通じて、生産終了後の春に、無許可でいちごの苗を販売していた事例がありました。

 県では、農産物知的財産権センターがこのような行為を監視しており、販売者に対して種苗法の違反である説明を行い、販売を中止するよう警告しています。

 悪質な場合は、刑事罰も科せられますので、適正に生産を行いましょう(引用資料④)。

 

栃木県における知的財産権の活用事例

 栃木県内にも、生産者でありながら新品種育成を行い、育成者権を利活用して有利な経営を行っている方がいます。

 県では、農業分野において生産者が自ら知的財産権を取得し、経営の向上に結びつけた実績を評価して、平成20年から「栃木県農産物知的財産功績表彰」という事業を行っています。

 これまでに8件の表彰を行いましたが、特許権、商標権、育成者権など様々な知的財産権を生産者自らが取得され、ブランド化や販路拡大などに活用されています(表4)。

 表4

 

 このうちの一人、川村一徳(かわむらかずのり)さんをご紹介します。

 川村さんは日光市で(有)ジョルディ・カワムラ(引用資料⑤)を経営されています。

 川村さんは、ペチュニアの仲間であるカリブラコアの品種開発に取組み、平成15年に初めてオリジナル品種ティフォシーパープル及び同ブルーを品種登録出願し、花色や、草姿に優れ、栽培しやすい品種を開発し続けています。

 現在は、登録品種が11品種、出願公表中の品種が4品種あります(図4)。

図4

 最近では一般的になったこの花も、当時は珍しく、また、花色も多様であったことから市場性が高く認められ、日本でも有数の産地の形成に成功されました。

 先見の明があったことはもちろんのこと、ブランド化を図るため、品質管理を徹底して秀品のみを販売したり、ラベルやポップの作りにもこだわり、高級感をもたせるような商品に仕上げるなど経営感覚にも優れていたことが、高い評価につながりました。

 品種登録により自らの優位性を着実に確保しつつ生産販売を拡大したことで、売り上げも、平成23年度には100万鉢・1億4500万円を挙げるなど、カリブラコア生産の第一人者として活躍されています。

 最近では、イオンビームを利用した新しい突然変異育種にも取り組んでいるとのことで、新規な形質を持った商品性の高い新品種開発にも期待がかかります。

 

知的財産権の取得に向けて

 知的財産権を持つことは、競争優位性を確保して経営面で有利な立場に立てることはもちろんですが、それに加えて、最新の手法による新品種開発や、新たな市場の開拓にも挑戦するなど、経営を高度化する意欲を高めることにもつながるのではないでしょうか。

 品種登録は、決して楽なハードルではありませんが、過去にも優れた品種を篤農家が開発した例はたくさんあります。

 何よりも作物の特性を一番知っているのは、皆さんなのですから、個人でも、グループでも結構ですので、是非ともオリジナル品種の開発に取り組み、自らが育成者権を持った新品種の開発を行い、経営に取り入れてはいかがでしょうか

 県では、農産物に関する知的財産権の取得に関して、アドバイスを行う窓口を設けております。相談は無料ですので、お近くの農業振興事務所か経営技術課までお問い合わせください。 

<お問合せ先>
経営技術課 栃木県農産物知的財産権センター
電話:028-623-2313 FAX:028-623-2315 メール:agriinfo@pref.tochigi.lg.jp

<引用資料>
①種苗法(法務省のHPより) http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10HO083.html
②農林水産省品種登録HP(登録品種に関する情報満載)  http://www.hinsyu.maff.go.jp/
③品種登録と育成者権(ブログ中で引用したパンフレットの本文、入門手引きに最適) http://www.hinsyu.maff.go.jp/pvr/pamphlet/120726seido.pdf
④登録品種は適正にとりあつかいましょう(パンフ)http://www.hinsyu.maff.go.jp/pvr/pamphlet/080819tekiseiriyou.pdf
⑤(有)ジョルディカワムラ http://www.giardino-k.com/

 

※ 栃木県農政部の情報は、「とちぎファーマーズチャレンジネット(http://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/)」や「栃木県農政部ツイッター(http://twitter.com/tochigi_nousei)」でも発信していますので、是非、ご利用ください。