6次産業化の基本~マーケティング・リサーチについて

  道の駅の開業をきっかけに、ジェラート店を開業した県内のいちご農園に話を聴く機会がありました。いちご生産部門は経営主夫妻が、ジェラート部門は後継者が担当という部門担当制で6次産業化に取り組んでいます。

  今回は、この事例を元に、6次産業化に踏み出す前の「マーケティング・リサーチ」について考えてみたいと思います。

1 事例から見たマーケティング・リサーチとポイント

(1) 徹底した食べ歩き調査
 ジェラート部門を担当する後継者は、道の駅への出展を契機に、東京での仕事(ジェラートや農業とは異分野)を退職し、県内に戻ってきました。自らが責任者として事業を成功させなければならない立場となったとき、まず初めに行ったことは、「徹底的にジェラートについて調べる」(食べ歩く)ことでした。

 県内や近県の道の駅のジェラートはもちろん、民間企業のジェラートの食べ歩きから始め、東京で人気の店に行ってはメニューや価格、店の雰囲気などを調べて、自分なりにデータとしてとりまとめ、新たに開業する店のコンセプトや経営を考える材料としました。

[この調査のポイント]開店までの取組
 「自らの農園で採れた完熟いちごをメインに活用するジェラートを提供する」という基本路線があったとは言え、大手のジェラート企業と比較した場合、ブランド力、価格面などでは競争が難しいことや、たいていの「道の駅」にはジェラート店が併設されている昨今の状況など開業に向けた厳しい状況があります。

 しかし、この調査を行うことで、「ジェラート」という商品の「マーケット」にはどんな種類が、どんな価格で、どんな場面(店舗の立地条件や雰囲気など)で客に提供されているかを徹底的に調べ、自分なりに強みや弱み、ターゲットなどを分析することができました。
 さらに、調査を通じて、「どうしたら他のジェラート店とは違う価値を提供できる店になれるのか」について、自分なりの答え「顧客に満足感、ぜいたく感、ごほうび感を提供する素材へのこだわり」を導き出すことが出来ました。
 このように、他の商品との比較やマーケットの動向を知るためのマーケティング・リサーチは、結果として、自分が開業する際に何を強み(競争優位性)としていくかの方向性を明確に出来るという利点があります。

(2)目指す店での“修業”を通じた商品を磨き上げるノウハウ習得
 食べ歩き調査の中で、都内で気に入った店を見つけました。オーナー(店長)が“手作り”“味”“素材”に徹底的にこだわり、消費者とのふれあいを大切にするというコンセプトで人気を博していたところです。直接店を訪問するだけでなく、店長のブログを毎日確認し、自分でも同じような店にしたい、と強く思うようになりました。

 その後、その店の店長に「無給でもいいので働かせて欲しい」と直接交渉して、ほぼ初対面だったにもかかわらず、熱意に打たれた店長が仲間として迎え入れてくれることになりました。その店でのいわば修行期間中に、甘さ(多彩な糖の組み合わせ)や素材への徹底的なこだわり、メニュー化までの手順やノウハウなどを学びました。ここでは、ジェラートの技術を学ぶことはもちろんのこと、消費者とのふれあいの中から、どんなお客が、どんな思いで(何を期待して)ジェラートを注文するのか、ということ学び体験できたとのことです。

[この調査(体験)のポイント]
 飛び込みでお願いした“修業”で、実際に「素材にこだわった、ワンランク上のデザート」の製造技術を習得できたことが開業に向けて最も大きな成果ですが、マーケティングの観点でこの調査(体験)を見てみます。開発する商品の位置づけ模式図

 ここでは、客の反応を直接聞きながら、新しいメニューを次々と提供し、客の反応を見ながら改善しつつ、主力商品にしたり、場合によっては別のメニューに変えていく、という作業を繰り返し行いました。

 1の調査が「他の商品との比較」だったのに対し、この体験は「他の商品との比較ではなく、開発した商品そのもの評価」を毎日のように目の前で受けるということでした。新しいメニューを開発する際の「作り手の考え」と、実際に商品として提供したものを「味わったお客の反応」とが、どう一致(期待した通りの味)し、どうギャップがあるのか(思った味と違う)、満足してもらえたのかどうか、などをまさに「肌で体験」したことになります。

 このように、開発した商品を、ターゲットとする顧客に試食してもらい、良い点と悪い点を聞き取り改善に活かす(商品の良さを深めていく)、という手法のマーケティング・リサーチは、大手の食品企業でも「グループ・インタビュー」などとして、頻繁に活用されています。

 その後、この事例では、徹底的な調査と目指すスタイルのお店での体験を元に、ある程度決まっていた店舗のアウトラインについて、そのコンセプト、回転率、原価、必要な機材やショーケースなど、ほとんどすべてをゼロベースで再度練り直してから開店にこぎ着けました。
経営者として、自らが志すコンセプトで開業できたことは、高いモチベーションの維持にも繋がっているようで、現在、ほぼ計画通りの売り上げを上げているとのことです。

2 マーケティング・リサーチの手法
 1では、事例を中心に考えてみましたが、実際のマーケティング・リサーチには、目的に応じた様々な手法があります。ここで、いくつか紹介します。(マーケティング理論は様々なものがありますので、ここに挙げるのは、あくまでヒントとしてご覧ください。)

(1) 主に事業開始前(商品開発前)から行うリサーチ
 ア 事業機会(ビジネスチャンス)を探るための手法
  公開されている様々な統計などで、どんな商品の消費が増えているのか(減っているのか)など、全体的な傾向を把握することができます。
 (例)
「総務省統計局 家計調査」http://www.stat.go.jp/data/kakei/2.htm
  世帯ごとに、どんなものをどのくらい(金額や量)購入したのか、などを調べることができます。
「農林水産省 食糧需給表」http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/index.html
  主な品目別(農産物)に、1年間にどのくらい消費されているのか、などを調べることができます。
「総務省統計局 国勢調査」http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm
 どんな人が(性別、年齢など)がどのくらい住んでいるのか、世帯の所得別の分類などを調べることができます。
「各種専門紙(誌)」
 外食、食品加工など、それぞれの分野で専門の新聞や雑誌が刊行されており、トレンドや話題の技術などの情報を入手できます。
 他にも、通常購読している新聞や雑誌の関連記事の切り取り、マーケティングリサーチ会社が刊行している関連書籍、インターネットでの検索なども参考になる情報が得られます。

イ 開発しようとする商品を他者と比較する手法
 「観察」「アンケート」「聞き取り」「インターネット関連への出品」などによって、競合相手となる商品や、商品を購入する顧客層、どこが評価されているのか、などを明らかにするものです。
 事例では「飛び込みでの修業」がありましたが、他の実践者からも、関連する企業で一定期間アルバイトなどを行って、何がどう評価されて売れるのかを十分に学んだ、という声を聞くことがあり、その業界の内部に何らかの手法で入り込む、という手法もあるのかもしれません。

(2) 主に事業開始(商品開発、試作品開発)後のリサーチ
 ア 商談会やアンテナショップを利用する手法
 商品の特徴(製造法、こだわり)などを明確に記載(FCPシート(図参照)などを作成)して、様々な商談会やアンテナショップに出展(出品)して、バイヤーなどから評価を受けるものです。FCP
 この手法で、開発した商品が実際には他者にどのように映るのかを直接知ることが出来ると当時に、商品の良さがきちんと伝わっているか(伝え方に問題がないか)、などコミュニケーションのスキルについて気づくことが出来ること、また、求められる取引基準に対する過不足などを知ることが出来ます。

イ 直接、消費者(顧客)から聴き取る手法
  商品にアンケートを添付する、試食してアンケートに答えてもらう、「面接」や「グループインタビュー」などを行う、などを通じて、直接、商品のの良い点、悪い点などを明らかにするものです。

(3) 購入の動機等の原因や結果を探るリサーチ
 購入したきっかけ(何を見て、誰かに言われて、など)や、その他の条件(天候、気温など)など、何故売れたのかについて、インタビューやアンケート、関連データなどから明らかにするものです。
 これらのマーケティング・リサーチは、専門の会社に調査を委託することも可能です。しかしながら、新たに事業を起こそうという場合には、調査の過程で得られるノウハウや情報に触れること自体が、後々の事業展開に生かされることが多いようですので、自ら行う調査と、他者に委託する調査とをうまく組み合わせていくことが重要です。

3 まとめ
 マーケティング・リサーチは、現在、その商品を購入している人、今後、購入する可能性がある人(いわゆる市場)について、①どういう人(年代、性別など)が市場を構成しているか、②実際に買っているものは何か、③いつ購入しているか、④何が(誰が)購入のきっかけとなっているか、⑤何故買うのか、⑥どのようにして(どこで)買うのか、の情報を集めて分析して明らかにし、事業開始や商品開発に活かすものです。
 新しい事業は、データや理論の裏付けがあれば、必ず成功するというものではありません。
しかしながら、厳しい競争の中に踏み出して新しい事業(商品)を起こしていく、という場合には、その分野で何を強みとするのか、誰をターゲットに、どういう場面で買ってもらうのかを、徹底的に考えていく必要があります
 また、商品を売り込む際に、他の商品との比較を的確に説明することで購入する契機にしてもらえることも多く、逆に、すばらしい商品でも、良さの伝え方や売り方(場所や流通、説明方法)などが適していないために売り上げが伸び悩む場合も多いのも事実です。
 このようなことから、6次産業化の成功には、マーケティング・リサーチが必要不可欠であることは御理解いただけるかと思います。

(参考1)
日本政策金融公庫がH23年に実施した6次産業化に取り組む農業者約300を対象に行った調査によれば、6次産業化の今後の課題として以下が挙げられています。(下線は、マーケティング・リサーチに関連した項目です。)
http://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_111202_1.pdf

(抜粋)「今後の取組み課題で重要と考えるものについては、67.3 %が「商品の差別化・ブランド化」を挙げ、次いで「必要な人材の確保」が55.8%にのぼったほか、「円滑な資金調達」「マーケティングにもとづく商品開発」「販路拡大に向けた営業努力」が目立った。

(参考2)
 FCP(フード・コミュニケーション・プロジェクト)
 取引の際の製造工程の説明、開発した商品の商談会シート、などを、関係者が共通の様式で相互に活用するためのツールを開発するプロジェクト(活用ツールのダウンロード可)
 http://www.food-communication-project.jp/

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