農業分野における知的財産権の活用 その②(特許権編)

 (前回:農業分野における知的財産権の活用 その①(育成者権編)https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/member/2012/12/20) 

 今回は、農業分野における知的財産権のうち「特許権」について御説明いたします。

「特許権」とは?
 
私たちの生活を将来にわたり豊かにしていくためには、新しい技術開発が継続的に行われ、どんどん社会に還元されるような流れが必要です。このため特許庁では、優れた技術(発明)を考え出した者に権利を与えて保護し、そのかわりに技術を一般公開し、次の新しい開発に役立ててもらおうという仕組みを管理しています。この発明を行った者に対して与えられる権利が「特許権」です。日本では現在、特許を出願した日から20年間にわたり、発明を独占的に利用することが認められています。

 
例えば「カボチャの空中栽培法(平05-341569)」と呼ばれる特許があります。北海道の民間会社(新生商事)が登録しているものですが、パイプハウスの骨組みを利用してカボチャを栽培し、実がなってつり下がっている様子がUFOのように見えることからネーミングされました(http://www.47news.jp/CN/200808/CN2008082801000485.html)。実が土と接触しないため、変形や傷みのない高品質なカボチャが収穫できるということです。こういうものが特許になるの?と思われるかもしれませんが、実は普段当たり前のようにやっていることでも、他者からみれば素晴らしい技術やアイディア、つまり知的な財産なのです。部会やグループで開発した新しい栽培技術などを特許化すれば、他者は真似のできない競争力の強いブランド化した生産物の販売につながります。このブログをきっかけに、特許化にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

特許が認められるためには
 
特許が認められるためには、1『考案された技術が“発明”であるかどうか』、2『特許を受けるに値する内容かどうか』が問われます。
 
 まず、考案された技術が「発明」であるかということに関してですが、以下の4点を満たしているかどうかが問われます。
 【発明として認められるための4点】
 
①自然の法則に従っているものであるか(占いの方法や、ゲームのルールなどはダ メ)
 ②
技術的思想であるか(他人に技術を伝達できること)
 
③単なる発見ではなく創意されたものであること
 
④技術的に高度なものであるか

 次に、特許を受けるに値する内容かどうかについて、以下のようなものであるかどうか等が審査されます。
 【特許を受けるに値するかどうかの視点】
 ①産業に利用できるものであるか(実験レベルのものではないこと)
 
②新しいものであるか
 
③容易に考案できるものではないか
 
④未だ誰も出願していないものであるか(日本は先願主義といって、早いもの勝ちです)

 余談ですが、植物の新品種開発は、日本では工業的な製品とは異なるということで、「育成者権」という権利に分けています。 

特許出願の流れ
 
特許を出願するには、特許庁に対して特許願、明細書など自分の発明の内容と、特許を請求する範囲などを説明するための資料を提出します。書類の作成は、弁理士と呼ばれる専門家にお願いします。

 出願にあたっては、他の者が類似した特許を出願しているかどうかや、既に論文等で発表されていないかといった、先行事例調査なども依頼することも必要となります。

 特許庁に対して書類を提出されますと、以下のように特許の登録までは少し複雑な経過をたどります(図1)。

   特許の登録までには多くの費用が必要となります。特許出願料や出願審査請求料に加え、登録後に必要な料金として、 ‘年金’と呼ばれる毎年の登録更新料が必要となります。

 【参考】登録に必要な産業財産権関係料金一覧(2012年4月1日以降)
 http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/ryoukin/hyou.htm 


特許権のメリット 
 
特許の利用を希望する企業等に利用の許諾を行うことで利用料を得ることができます。
 特許権を許諾することでどのようなことが可能となるかということですが、主に特許技術を利用した商品の宣伝や販売となります。発明者は、通常は許諾相手から販売額に応じて利用料を徴収できます。もちろん、自らが商品を販売し、他には利用させないということも可能です。


栃木県が取得した農業に関する特許の例
 
栃木県では、新品種の育成の他にも、農業試験場等で開発された技術のうち特に優れたものについては特許を登録しています。現在は5件の登録がありますが、その中から「いちご栽培装置(閉鎖型)」(特許第3841984号)をご紹介します(図2)。

 2本のパイプに不透根シートをたるませてU字状にかけ、そこにクリプトモス等を主とする培地を入れていちごを栽培するのですが、その外側にもう一枚、防湿性シートをたるませて不透根シートとの間に空気槽を設け、暖気用ダクトを通すという構造です。培養液の滴下にも工夫がしてあり、余剰な培養液を再度利用するような構造となっており、余剰液は極力出さないエコロジカルな栽培装置です。


~さいごに~ 
 
先ほどの、「カボチャの空中栽培法」の例などの一部は、「農林水産知的財産ネットワークポータルサイト」http://aff-chizai.jataff.jp/において検索することが可能です。特に、最近では農産物の加工法などの登録も散見されるようになってきましたので、6次産業化を考える際のヒントを得たり、あるいは実際に開発者から許諾を受けて加工品を商品化するなど、これからの展開に是非とも御利用されることをお勧めします。 特許について興味のある方は、県経営技術課又はもよりの農業振興事務所まで、お問い合わせください。

 【参考】平成24年度知的財産権制度説明会(初心者向け)テキスト(とても良い資料です。)
  http://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/h24_syosinsya.htm

 

<問い合わせ先>
農政部経営技術課(栃木県農産物知的財産権センター)
電話 028-623-2313 FAX028-623-2315 
メール agriinfo@pref.tochigi.lg.jp

農業分野における知的財産権の活用 その①(育成者権編)

 今回は、農業分野における知的財産権(育成者権)の概要と注意点、さらに知的財産権を活用した経営事例についてご紹介します。

 今後、これまで以上に、農業分野における知的財産権の重要性は増してくると考えられます。

 知的財産というと、皆さん自身が品種登録等の知的財産権を取得し、権利を守ることで経営向上を図るということが、まず思い浮かびがちですが、それだけではなく、知的財産権は全て法律で保護されているものなので、プロの農業経営者としては、他者の知的財産権を侵害しないようにしなければなりません

 知識のないまま、いつの間にか他者の権利を侵害してしまい、思わぬ損害を相手に与え、場合によっては刑事罰が科されることもあります。

 プロの農業者としては、知的財産権について充分な知識を持っていることが必要不可欠です。

 これから知的財産権(育成者権)について順を追って説明していきます。皆さんの農業経営・生産にお役立てください。 

知的財産の定義と種類

 知的財産とは、一般的に人間の知的、創造的な活動によって生み出された経済的に価値のある物やアイディアを指します。

 知的財産のうち、特許庁や農林水産省に登録を行うことによって、開発者の独占的な権利が認められるものは7つあります(図1)。

 この中で、農業分野に最も関係の深いものは「種苗法」により新品種の育成者に与えられる「育成者権」です。

図1

 

種苗法と品種登録について

 安定した農業生産を行い、均質な生産物を収穫して販売するためにも、優れた特性を持つ「品種」を選定し、信頼性の高い業者等から優良な種苗を手に入れることは極めて重要です。

 このため、「種苗法」という法律が、新品種の登録や種苗の流通を適正に管理するために存在します(引用資料①)。

 既存の品種よりも更に優れた特性を持つ品種を作り出すことは、農業を活性化することにつながるため、国では、品種育成者に「育成者権」という権利を与えています。

 これにより、我が国では昭和53年に品種登録制度が整備されて以来、2万を超える品種が登録されており、現在でも年間1000を超える品種登録出願が行われています(図2)。

 図2

 

 新品種として登録するためには、農林水産省所定の審査を受ける必要があります(引用資料②および③、表1)。

表1

 

 無事に審査が済めば、登録料を支払うことで植物なら25年間、樹木類なら30年間の間、育成者権が認められます(表2、図3)。

表2

図3

 

 「育成者権」を持つことで認められる行為も、種苗の生産、譲渡(販売)等と多岐にわたっており、優れた品種を開発すれば生産販売で儲かるだけでなく、ロイヤリティ(許諾料、利用料などのこと)を徴収することで、更に莫大な収益が見込めるわけです(表3)。

表3

 

種苗法の落とし穴

 しかし、種苗法という法律をよく知らないために起こる困った事案があります。

 皆さんが生産している種苗は、品種登録されたものでしょうか?

 そして、それは育成者権が有効な期間中のものでしょうか?

 もし該当する品種であれば、種苗から生産して生産物を販売する行為は認められていますが、許諾された内容によっては、余った苗や、生産終了後の株を勝手に他人に販売する行為は法律違反です。

 もちろん、種子についても同じです。

 実際に、インターネットを通じて、生産終了後の春に、無許可でいちごの苗を販売していた事例がありました。

 県では、農産物知的財産権センターがこのような行為を監視しており、販売者に対して種苗法の違反である説明を行い、販売を中止するよう警告しています。

 悪質な場合は、刑事罰も科せられますので、適正に生産を行いましょう(引用資料④)。

 

栃木県における知的財産権の活用事例

 栃木県内にも、生産者でありながら新品種育成を行い、育成者権を利活用して有利な経営を行っている方がいます。

 県では、農業分野において生産者が自ら知的財産権を取得し、経営の向上に結びつけた実績を評価して、平成20年から「栃木県農産物知的財産功績表彰」という事業を行っています。

 これまでに8件の表彰を行いましたが、特許権、商標権、育成者権など様々な知的財産権を生産者自らが取得され、ブランド化や販路拡大などに活用されています(表4)。

 表4

 

 このうちの一人、川村一徳(かわむらかずのり)さんをご紹介します。

 川村さんは日光市で(有)ジョルディ・カワムラ(引用資料⑤)を経営されています。

 川村さんは、ペチュニアの仲間であるカリブラコアの品種開発に取組み、平成15年に初めてオリジナル品種ティフォシーパープル及び同ブルーを品種登録出願し、花色や、草姿に優れ、栽培しやすい品種を開発し続けています。

 現在は、登録品種が11品種、出願公表中の品種が4品種あります(図4)。

図4

 最近では一般的になったこの花も、当時は珍しく、また、花色も多様であったことから市場性が高く認められ、日本でも有数の産地の形成に成功されました。

 先見の明があったことはもちろんのこと、ブランド化を図るため、品質管理を徹底して秀品のみを販売したり、ラベルやポップの作りにもこだわり、高級感をもたせるような商品に仕上げるなど経営感覚にも優れていたことが、高い評価につながりました。

 品種登録により自らの優位性を着実に確保しつつ生産販売を拡大したことで、売り上げも、平成23年度には100万鉢・1億4500万円を挙げるなど、カリブラコア生産の第一人者として活躍されています。

 最近では、イオンビームを利用した新しい突然変異育種にも取り組んでいるとのことで、新規な形質を持った商品性の高い新品種開発にも期待がかかります。

 

知的財産権の取得に向けて

 知的財産権を持つことは、競争優位性を確保して経営面で有利な立場に立てることはもちろんですが、それに加えて、最新の手法による新品種開発や、新たな市場の開拓にも挑戦するなど、経営を高度化する意欲を高めることにもつながるのではないでしょうか。

 品種登録は、決して楽なハードルではありませんが、過去にも優れた品種を篤農家が開発した例はたくさんあります。

 何よりも作物の特性を一番知っているのは、皆さんなのですから、個人でも、グループでも結構ですので、是非ともオリジナル品種の開発に取り組み、自らが育成者権を持った新品種の開発を行い、経営に取り入れてはいかがでしょうか

 県では、農産物に関する知的財産権の取得に関して、アドバイスを行う窓口を設けております。相談は無料ですので、お近くの農業振興事務所か経営技術課までお問い合わせください。 

<お問合せ先>
経営技術課 栃木県農産物知的財産権センター
電話:028-623-2313 FAX:028-623-2315 メール:agriinfo@pref.tochigi.lg.jp

<引用資料>
①種苗法(法務省のHPより) http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H10/H10HO083.html
②農林水産省品種登録HP(登録品種に関する情報満載)  http://www.hinsyu.maff.go.jp/
③品種登録と育成者権(ブログ中で引用したパンフレットの本文、入門手引きに最適) http://www.hinsyu.maff.go.jp/pvr/pamphlet/120726seido.pdf
④登録品種は適正にとりあつかいましょう(パンフ)http://www.hinsyu.maff.go.jp/pvr/pamphlet/080819tekiseiriyou.pdf
⑤(有)ジョルディカワムラ http://www.giardino-k.com/

 

※ 栃木県農政部の情報は、「とちぎファーマーズチャレンジネット(http://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/)」や「栃木県農政部ツイッター(http://twitter.com/tochigi_nousei)」でも発信していますので、是非、ご利用ください。