「自分たちで土地探し」編

 黒彩で仏画を描き石の仏蔵を彫るご主人と福祉施設などで音楽のワークショップを行う奥様が、小学生の娘さんと一家で那珂川町に移住されたのは2001年。
  「多くの人との出会いがあって今の暮らしがある」と話すお二人は、「花の風まつり」という地域を巻き込んだイベントを提案。
  人の縁をたよりに、土地探しをご自分たちでされたというお話など伺いました。

■きっかけは那須水害、人の縁をたどってこの町に  こちらに来る前は神奈川県の葉山、相模湾沿いの海に近いところに住んでいました。その頃からの知り合いが那須に移住して、そこで展覧会をやらないかという話しになって準備していたんだけど、ちょうどその年に「那須水害」が起きて、そんなことがあったすぐ後に展覧会もないだろうと中止しました。そして、水害のひどかった余笹川で河原の石を拾い、被害にあった方を供養する仏さまを彫って橋のたもとに置いたんです。すると、そこの地主さんから「この土地を貸すから住まないか」と言われて。いろいろあってそこは借りられなかったんだけど、すっかり移り住む気になっていたから、他に土地を探し始めました。そうしたら知り合いから馬頭(現那珂川町)を紹介されたんです。
  自然が美しいこの町が気に入って、土地を探すのに誰に聞いたらいいかと、とりあえず知人に紹介された人を訪ねました。そしたらその人が地元のお寺の御住職を紹介してくれました。その御住職の紹介で空家を借りて住み、本格的に土地を探しこの場所を見つけました。地主さんとの話し合いには地元の神主さんが間に入ってくれて…。
  私たちみたいに直接地主さんから土地を借りようというのはとても大変だけど、訪ね歩くとみんな良い人ばかり。本質的な人の良さみたいなものが、ここにはあると思う。田舎の財産ですよね。


■春、美しく萌える季節が最高!  雑木林が多いので、この辺りの冬は裸木ばかりで寒々しい。でも、冬を過ぎて新芽が出る頃になると急に枝先が赤くなってくるんです。それから一週間、山全体が萌黄色に変わって行く。むせ返るような春の匂いに「やられた!」って感じです。毎朝、おいしい空気を胸いっぱいに吸って、本当に幸せだと感じます。
  ただ、不便なところもあります。少子化に伴って保育園のバスがなくなったり、車を運転できるうちは良いけど年を取ったら買い物のことも心配…。でも、この町には病院が多いので、その点は安心です。交通の便と医療と教育環境。この3つが整えば、田舎暮らしは随分変わると思います。


■5月の「花の風まつり」で会いましょう  ゴールデンウィークに毎年「花の風まつり」というイベントをやっています。参加者が、それぞれやりたいことを行うというお祭り。自分が描いた絵を飾ったり骨董を並べたり、竹やぶでタケノコ掘りをさせてくれたり…。コンサートや展覧会など、いろいろあって楽しいですよ。最初の1、2年は参加する人もお客さんも少なかったけど、5年目の今年は会場が50ヶ所くらいに増え、期間中1万人ほどのお客さんに来ていただきました。町おこしなんて大層なことでなく、農家さんの庭先でお茶を飲みながら話しをするような、誰にでも出来て誰もが楽しめることをやりたいんです。
  5月の連休、田んぼの縁に「花の風まつり」っていう旗がひらひら…、その感じが素敵なんです。都会の人には、まずは遊びに来て、人と知り合って欲しいですね。

@/一町歩の敷地に建つアトリエと母屋
A/敷地内を流れる沢の水源には一番に仏さまを置いた
B/沢をせき止めて作った池
C/人なつこい愛猫
D/ご主人が彫る石の仏さま
EFG/ご主人が描くほほえみの仏さま
H/「道の駅ばとう」の正月飾り
IJ/「花の風まつり」の会場になった乾徳寺(乾徳寺提供)
KL/「花の風まつり」でお客様と歌う(岡倉さん提供)
M/「花の風まつり」のパンフレット(岡倉さん提供)
N/茨城県天心記念五浦美術館で行われた「ほほえみのほとけ展」(岡倉さん提供)